2016年ヘルステック業界の振り返りと2017年の展望
2016.12.27
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本年冒頭、NewsPicksにヘルステック業界についての2016年の展望を寄稿しました(記事はこちら)。

「2016年、ヘルステックと医療現場はついに直結する」というタイトルで、「遠隔医療」を皮切りに、医療業界という括りの中でwebとリアルで断絶されていた世界がいよいよ融合を見せていくことを期待したものでした。

国家財政の逼迫に伴い、ICTを活用した医療費の削減は急務であり、今後も遠隔医療に限らずヘルステック業界での起業や異業種からの参入は増加していくでしょう。

そこで本年最後に、ヘルステック業界全体としての2016年を振り返り、2017年の展望を占ってみたいと思います。

「遠隔医療元年」となった2016年、1年経った現在と今後の展望

2015年8月の厚生労働省事務連絡により、いわゆる遠隔診療の適用される地理的範囲・対象疾患がかなり広いことが明らかになり、この1年はいくつかの遠隔医療事業提供企業が誕生し、まさに「遠隔医療元年」となりました。ヘルステック関連イベントの中でも「遠隔医療」は、「AI」に並んで最も注目を浴びたキーワードであったと思われます。そして我々も7月に、オンライン医療相談プラットフォーム「first call」を提供する株式会社Mediplatをグループ化しました。

ここで、遠隔医療について法的な解釈も含めて一度整理しておきます。

遠隔医療は、大きく分けて「遠隔医療相談」という医療行為の手前のコンサルティングサービスと、「遠隔診療」というテレビ電話、テキストチャット等のITにより医療行為そのものを補完するサービスの二種類に大別されます(サービス提供先の患者や医療従事者、医師による分類もあるが今回は割愛します)。遠隔診療は医師法を遵守することが求められるため、より慎重な対応が必要となることはご認識の通りです。

■「遠隔医療相談」の過去と未来

遠隔医療相談サービス自体は、実は古くから電話などを利用して、主に企業の福利厚生サービスとして提供されているものがあり、特に目新しいものではありません。ただ、新規参入組である我々の「first call」や MRT社の「ポケットドクター」を含めて、テレビ電話システムが取り入れられたことにより、顔の見えない医師や医療従事者への相談(匿名)に、顔の見える相談(実名)が追加されつつあることは一定の新規性があるものと思われます。

ただし、我々の取り組みによる経験では、実名相談により安心感は担保できるものの、相談の内容によっては対面では話しにくい症状などもあるため、すべての医療相談が実名に置き換わるとは考えにくいと思っています。今後は、場合に応じてテキストチャットや電話、そしてテレビ電話を組み合わせてサービス提供していくことになるでしょう。

元々が参入障壁の低い領域であり、これらサービス提供の形、提供先(B to BかB to Cか)、そしてサービスの質によって各社が差別化を図ることになっていくと思われます。

■「遠隔診療」の未来

先に述べた事務連絡の結果、本年ヘルステック業界において最も話題となったのがこの遠隔「診療」でしょう。では、遠隔診療が世間に普及していくにあたって必要なものとは何でしょうか?

私は、遠隔診療が今後普及していくためには「法的な整理」、「ビジネスモデルの構築」、そして「サービスを提供する医療従事者の理解と同時に受け手側である消費者の理解」が不可欠だと考えています。そして、遠隔診療の普及に伴い、医療の質の担保及び効率的な提供に関するエビデンスが揃っていく段階で、「当たり前」のサービスとなっていくと思われます。

以下、この「法的な整理」、「ビジネスモデルの構築」、そして「医療従事者・消費者の理解」について現状と課題を記します。

<法的な整理>
「法的な整理」については、上述したとおり厚生労働省の事務連絡、および本年3月に東京都の疑義照会に対して厚生労働省が回答する形で、一定のガイドラインが示されたと考えています。すなわち、遠隔診療を実施する際には診療の過程のどこかの段階で対面診療を入れること、つまり遠隔診療で完結する形の医療行為は医師法違反にあたる、という解釈です。臨床を行っている医師であれば常識的ではありますが、最も情報量を必要とするのは初診時であり、いくつかの遠隔診療サポートサービスでは初診時を対面診療として行い、その後の再診の過程で遠隔診療を提供する形態のサービスとなっています。

また、昨年の遠隔医療関連イベントで必ずと言っていいほど話題になったのは、遠隔医療相談と遠隔診療の連続性についてです。すなわち、「どこまでが相談で、どこからが診療行為なのか?」という問いかけです。当然診断し、投薬するとなれば間違いなく診療行為であるわけですが、その前段階の相談については判断も難しく、個別の事例次第での判断もありえるため、今後も様々な議論が生まれる可能性があります。ただし、電話相談の形では古くから遠隔医療相談は存在していたわけで、議論は一定の帰結を見るものと予想されます。

本年、多くのイベントにパネリストとして参加した私としては、議論がこれら法的解釈の部分に終始した感があり、少々残念な印象をもちました。人の命に関わる問題であるため、今後も慎重さと建設的な発展のバランスを意識した議論が望まれます。

<ビジネスモデルの構築>
では、ビジネスモデルの構築についてはどうでしょうか。
現時点では、遠隔診療を保健医療の枠組みで提供する場合には再診料程度しか加算することができず、導入元の診療所には金銭的なインセンティブがありません。そのため、遠隔診療を提供する企業は予約システムをセットで販売し、「予約料」の形で対面診療による収入の不足部分を補完するモデルを提案していますが、これのみでは急速な広がりは期待できないと思われます。

しかし、最近になって政府が遠隔診療にも対面診療と同等の保険点数をつけるべき、と言及しており経済的なインセンティブが担保される可能性は十分にあります。他にも、今後例えば電子処方箋と組み合わせて処方箋の発行から調剤、発送、服薬指導まで一気通貫で行うサービス等も試行される可能性があります。

また、当然消費者側の感覚とすり合わせる必要はありますが、保険診療を捨て、完全に自由診療で展開するという方法もあり、2017年には様々なサービスが出現するでしょう。(この場合にも医師法は遵守しなければならないことは注意が必要です)

<医療従事者・消費者の理解>
そして最後、医療従事者・消費者の理解についてはどうでしょうか?
私は、この部分こそが最も重要であるのと同時に、保守的な国民性であるがゆえに導入を阻害する最大の要因となると考えています。

上述した通り、本年のイベントでは「法的な解釈」について議論になることが多かったわけですが、その発言の多くは医療従事者から生まれたものでした。もちろん、人の命を預かる専門家である以上慎重にならざるを得ず、かつ突然医師法違反である、とされたら混乱するのは間違いないため当然の姿勢ではあります。ただし、その発言の裏側に見え隠れするのは、新しいサービスに対する、ある意味思考停止された抵抗感です。

ここで、医師専用サイト「MedPeer」内で本年3月に行った調査を共有します。
「遠隔医療は進みますか?」と質問した結果、医師4,041人中、実に88%の医師が遠隔医療は「進む」と答え、37%の医師が遠隔医療に「参画したい」と答えています。
下の方はこれを年代別に見た結果です。「参画したい」と答えた医師の割合は若年層ほど多く、遠隔医療を前向きに捉えている層が多いことが分かると思います。(調査結果の詳細はこちら

この結果から我々は、当面は医療従事者側からも一定数の抵抗感があるものの、比較的早期に当たり前のサービスとして受け入れられていくものと考えています。

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以上、本年ヘルステック業界の中心となった遠隔医療について、本年の動きと来年以降の展望を記載しました。

遠隔医療相談にしても、遠隔診療にしても、来年以降進展を見せることは間違いなく、そこに膨大なデータが蓄積していく過程では、AIによるサービスの補完も当然の視点として求められてくるでしょう。クラウドベースの電子カルテとの融合など、引き続きwebとリアルの融合する医療サービスの中心に位置づけておくべきと考えています。

ヘルステック業界全体の今後の展望

最後にヘルステック業界全体について振り返り、来年以降の動きを予測したいと思います。

■ヘルステック業界に「エコシステム」を持ち込めるか

昨年から目立つようになったヘルステックイベントは、弊社も昨年末に「Health 2.0 Asia – Japan」を日本に誘致し、主催した初回は約550名の方に参加いただきました。本年末にも第2回が開催され、昨年以上の盛り上がりを見せています。その他、ピッチコンテストに絞ったものやハッカソンなど、様々なイベントが開催されていますが、単発での開催に終わっているイベントも多数あり、今後も主催者側としては継続してムーヴメントを盛り上げていく粘り強さが必要だと思われます。

ヘルステック業界の外を見ると、日本においても少しずつ「エコシステム」と呼ばれる起業家養成の生態系が循環しつつあることが感じられます。この「エコシステム」をヘルステック業界に持ち込むためには、「投資資金の流入」「スタートアップ企業数の増加」「IPOのみでない多様なExit plan」「再チャレンジ可能な文化の醸成」「他業界からの成功事例の輸入」等が必要だと思います。

■医師など医療従事者が「事業を創る」動きが加速

一昨年の当社の上場は、近年増加しつつある医師による起業の後押しに一定の寄与をしていると考えています。この一連の流れを循環させるための一つの動きとして私は、自見氏(日医連盟参与・参議院議員)、武部氏(横浜市立大学大学院 医学研究科 准教授)、宮田氏(日本医療政策機構 理事)とともに「01 Doctor Initiative」を発足させました。

会員資格は「医師・医学生」に限定し、「事業を創る」ことに関心のある人だけが集まるイベントです。従来の「臨床、研究、教育」に次ぐ、医師の新たな役割はゼロからイチへの「事業創り」であるということをコンセプトにしています。「事業を創る」というのは、ビジネスも一つの手段であり、政治家や医系技官となり国のシステムを創ることも事業づくりという捉え方で、医師会や起業家も含めて非常に幅広いネットワークを構築できる場となりました。

国民医療費が急増し、政府財政が逼迫する中、ヘルステック業界に向けられる視線は今後もますます熱くなることが予想されます。その視線に呼応するように、医師を中心とした医療従事者のアプローチとして、政官民での新たな取り組みが次々と行われるでしょう。

当社でもこれらの取り組みによる変化を機敏に捉え、10万人の医師ネットワークを活かしながら、社会へのインパクト・医療への貢献を主眼として新年も様々な取り組みを続けていきたいと思います。

※先日12月14日に開催した「01 Doctor Initiative」の様子です。約90名の医師・医学生が集まりました。
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